宇宙にビッグバンを引き起こした「種」とは一体何なのか?

本が好き。さんより転載>

ビッグバン説は、ほぼ正しいと認められている。「Andre Moret – New Earth」のジャケットで使われていた画像ですね。ステキな画像。

我々が生きているこの宇宙がビッグバンから始まった、ということは、もう常識と呼んでいいだろう。ビッグバンというのは、超大雑把に言えば、「凄く小さな“宇宙の種”みたいなものが爆発するように一気に膨張して宇宙が生まれた」という話である。ビッグバン説は、「宇宙背景放射」と呼ばれるものが正確に測定されたことで、ほぼ正しいと認められている。

さてしかし、「宇宙はビッグバンから始まりましたよ~」と言ったところで、まだ疑問は残る。じゃあ、その前には一体何があったのか、ということだ。もう少し具体的に言えば、「“宇宙の種”みたいなやつは突然どっから出てきたんだよ」ということだ。宇宙がビッグバンによって始まる前には、「何もなかった(それこそ空間すらなかった)」はずなのだから、そんなところになんで“宇宙の種”みたいなものが現れるんだ、と感じる人もいるのではないかと思う。

その疑問に答えてくれるのが本書なのである。というわけで、“宇宙の種”がどんな風に登場したのかを、現代物理学の叡智を結集させて説明していこうと思う。

スタートは、先程話に出した「宇宙背景放射」の観測である。これによってビッグバンが裏付けられたわけだが、もう一つ分かったことがある。それは、「宇宙が平坦である」ということだ。宇宙の形には理論上、「開いた宇宙」「平坦な宇宙」「閉じた宇宙」の三種類があり得るということが分かっていた。「宇宙背景放射」の観測まで、僕らが生きている宇宙がどれに該当するのか分からなかったのだが、観測によって平坦であることが分かったのだ。

しかしそれが困った問題を引き起こすことになる。

現代のテクノロジーでは、「銀河や銀河団の質量を測る」などという、どうやったらそんなことが出来るんだよというような観測が可能になっている。そして理論上、三種類の宇宙のそれぞれにおいて、宇宙を満たす物質の質量がどの程度存在すべきかが分かっている。僕らの宇宙は「平坦な宇宙」であることは間違いないのだが、宇宙の質量を測定すると、「平坦な宇宙」を作り出すのに必要な質量の30%程度しか存在しない、つまり、70%程度の質量が行方不明である(人間が未だに観測出来ていない)、ということが分かったのだ。

僕らの宇宙が「平坦な宇宙」である以上、残りの70%の質量はどこかに存在しなければならない。そこで考えられたのが「宇宙定数」なのだが、この説明のためには「アインシュタインの最大のヘマ」の話をしなければならない。

アインシュタインは相対性理論という素晴らしい理論を生み出したが、その際彼には一つ困ったことがあった。それは、相対性理論が「宇宙が膨張している」ことを導き出してしまうことだ。

何故それが困ったことなのか。僕らは既に、宇宙が膨張している事実を常識として知っているが、実はアインシュタインが生きていた当時、「宇宙は静止しているはずだ」と信じられていたのだ。だからアインシュタインは、自らの宇宙観に沿うように、相対性理論の式に手を加えた。「宇宙項」と呼ばれる定数を組み入れたのだ。この「宇宙項」は、「全空間に一定の大きさの力を組み込むこと」であり、宇宙が膨張しようとする力を、空間が持つ力で引っ張り合って均衡させようとしたのだ。

しかししばらくして、ハッブルが「宇宙が膨張している」ことを発見し、アインシュタインは「宇宙項」を「人生最大のヘマ」と呼び撤回した。しかしこの「宇宙項」は、現在「宇宙定数」という名前で見事復活を果たしている。そして今「宇宙定数」は「空間そのものが持つエネルギー」として理解されており、まさにこれが、行方不明中の70%エネルギーの正体なのではないかと考えられているのだ。

さてでは、この「空間そのものが持つエネルギー」とは一体なんなのか。その説明をするために、天才・ディラックにご登場いただこう。

20世紀物理学の至宝とも言うべき「相対性理論」と「量子論」は、それぞれは完璧な理論なのだが、この両者を統合しようとすると色々と障害が生まれてしまう。宇宙の謎を解き明かすにはこの両者の統合が絶対的に必要であるが、それは非常に困難なものであり、現在でも本質的な意味ではまったくうまくいっていない。

しかしディラックは、この二つをなんとか統合しようと頑張って、ディラック方程式という、相対性理論と量子論を矛盾なく組み合わせることが出来る式にたどり着いた。しかし、一つ問題があった。この方程式が正しいとすると、「電子とそっくりだが符号が逆の新粒子」が存在しなければならなかったのだ。当時そんな粒子の存在は予測も観測もされていなかった。しかしその2年後、実験家がまさにその性質に当てはまる粒子を発見し、「陽電子」と名付けられたのだ。

この発見を端緒として、今では、すべての粒子には反対の電荷を持つ粒子(反粒子と呼ぶ)が存在することが分かっており、反粒子から出来ている物質を「反物質」と呼んでいる。

さてここで、天才・ファインマンの登場である。ファインマンは「反物質」の存在から、「仮想粒子」という考え方を導き出した。これは非常に説明が難しいので、何故ファインマンが「仮想粒子」などという考え方にたどり着いたのかは省略するが、「仮想粒子」というのは、「何もない空間に突然現れる粒子」だと思ってもらえればいい。量子論の基本原理である「ハイゼンベルクの不確定性原理」によって、「ごく僅かな時間であれば、何もない空間に突然粒子が現れることが許容される」ことが分かるのだ。そして実際に、「仮想粒子」の存在を仮定しなければ実験結果の説明がつかない現象(というか、「仮想粒子」の存在を仮定することで、精度10億分の1という、あらゆる科学分野の中で最も正確な予測を導き出すことが出来る現象)も発見され、科学者たちは「仮想粒子」という考え方を受け入れることとなった。

そしてこの「仮想粒子」こそが、「空間そのものが持つエネルギー」の正体であると考えられており、つまり”宇宙の種”ということになるのだ。長い話でしたが、ようやくここで話が繋がりましたね。

この”宇宙の種”が、「インフレーション」と呼ばれる、宇宙の誕生初期にハチャメチャなスピードで宇宙が膨張したとされる現象によって指数関数的に膨張し、現在のような宇宙になった。これが現在正しいと考えられている宇宙論である。

宇宙の始まりに、「神(創造主)」的な存在を持ち出したくなる気持ちは分からないでもない。「ビッグバンによって宇宙が始まった」という説明は、「どうやって」という方法は示してくれているが、「どうして」という理由を説明してはくれないからだ。その「どうして」の部分に何か当てはめるとすれば「神」しかないだろう。しかし現代物理学は、「どうして」の部分に、「無は不安定である」という答えを入れる。本書には、こんな文章がある。

『量子重力は、宇宙は無から生じてもよいということを教えてくれるだけでなく(この場合の「無」は、空間も時間もないという意味であることを強調しておこう)、むしろ宇宙が生じずにはすまないということを示しているように見えるのである。「何もない」(空間も時間もない)状態は、不安定なのだ。』

僕は別に、「神」的な存在がいてもいい、と思っている。しかし「何もない無の状態が不安定だからこそ宇宙は生まれたのだ」と説明される方が、凄く納得感があるし、「何故宇宙が生まれたのか」という問いに対する正しい答えであるように僕には感じられる。著者は、宗教や哲学などの立場から「神」的な存在を支持する人たちと議論する機会が多いようだが、その議論の本質についても本書の中で解説してくれるので、非常に興味深い。

長江貴士

元書店員 1983年静岡県生まれ。大学中退後、10年近く神奈川の書店でフリーターとして過ごし、2015年さわや書店入社。2016年、文庫本(清水潔『殺人犯はそこにいる』)の表紙をオリジナルのカバーで覆って販売した「文庫X」を企画。2017年、初の著書『書店員X「常識」に殺されない生き方』を出版。2019年、さわや書店を退社。現在、出版取次勤務。 「本がすき。」のサイトで、「非属の才能」の全文無料公開に関わらせていただきました。

自動車大の小惑星が3000km上空を通過していた…太陽の方向からやってくると発見は不可能

先日記事にした「2020 QG」とは別物のようですが、より距離が近いのと太陽の方向からだと観測不可能なのも怖いですね。

((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

<Business Insiderより転載>

2020年8月16日に地球を通過した小惑星「2020QG」。黄色の矢印は太陽の方向、青は地球の方向、緑は30分ごとに小惑星の位置を示している。

2020年8月16日に地球を通過した小惑星「2020QG」。黄色の矢印は太陽の方向、青は地球が進む方向、緑の十字は30分ごとの小惑星の位置を示している。

Minor Planet Center/International Astronomical Union

  • 8月16日、自動車ほどの大きさの小惑星が地球から約3000kmの距離を通過した。天体が地球に衝突することなく、これほど接近したことはない。
  • NASAが資金を提供した観測プログラムは、2020 QGと呼ばれる小惑星を、その接近から6時間後に検出しました。
  • もし小惑星が地球に衝突していたとしたら、おそらく地上にダメージを与えることのない高度で爆発していた可能性が高いという。
  • しかし、このニアミスはまだ、危険な小惑星を探すための観測プログラムの大きな盲点を浮き彫りにした。

自動車サイズの小惑星が、8月16日に地球の2950キロ上空を飛んでいった。

それは非常に近くをかすめていった。イタリアのソルマノ天文台がまとめた小惑星追跡記録によると、これまで記録された中で最も近い距離だという。

この大きさでは実際に地球に落下しても、地上の人々に危険をもたらすことはなかっただろう。しかし、天文学者がそれが通過するまでその存在を知らなかったのは今後の懸念材料だ。

「小惑星は太陽の方向から検出されずに接近してきた」とNASAの地球近傍天体研究センターのポール・チョダス(Paul Chodas)所長はBusiness Insiderに語った。

「我々はそれが来るのを知らなかった」

その代わり、カリフォルニア州のパロマー天文台が小惑星が地球に最接近した約6時間後に最初に検出した

チョダス所長は、この出来事が記録的なことだったのを認めた。「実際に地球に衝突したいくつかの小惑星を除けば、記録上最も接近した」と彼は言った。

チョダス所長は、この出来事が記録的なことだったのを認めた。「実際に地球に衝突したいくつかの小惑星を除けば、記録上最も接近した」と彼は言った。

NASAは、このような地球近傍天体(NEO)のごく一部しか確認していない。その多くは、どの望遠鏡の視線も横切ることはなく、危険な可能性を秘めたいくつかの小惑星は地球に忍び寄ってきている。万が一それらが、NEO監視システムの隙間をすり抜けた場合、何万人もの犠牲者を出す可能性がある。

「2020 QG」は南半球の上空を飛行した

今回の地球近傍小惑星は、当初は「ZTF 0 DxQ」と呼ばれていたが、現在では正式名称の「2020 QG」と呼ばれている。

Business Insiderは、このことを最初に知ったのはOrbitalSimulator.comの作成者であるトニー・ダン(Tony Dunn)による報告からだった。

「新たに発見された小惑星ZTF 0 DxQは、昨日、地球の直径の1/4以下を通過した」と、ダンは8月17日にツイートした。彼が共有した動画を、許可を得てここに再掲載する。https://gfycat.com/ifr/AgileWhichAzurevase

このシミュレーション動画は、秒速12.4キロメートルの速度で進入した2020 QGの軌道を示している。

初期の観測によると、世界標準時の16日午前4時(東部標準時では15日真夜中)ごろに、その小惑星は南半球の上空を飛んだ。

上のアニメーションでは、2020 QGが南極近くの南氷洋の上空を飛んでいる。しかし、国際天文学連合の小惑星センターの計算では、わずかに異なる軌道を通っている。それによると、小惑星がオーストラリアの東数百キロメートルの太平洋上を通過している。

危険ではないが、歓迎されるものではない

宇宙の岩石としては、2020 QGはそれほど危険ではない。

観測によると、この天体の幅は2メートルから5.5メートルの間で、小型車と小型トラックの中間くらいの大きさだという。しかし、パデュー大学とインペリアル・カレッジ・ロンドンの「インパクト・アース」シミュレーターによると、たとえそれが想定される最大の大きさであっても、さらに、高密度の鉄でできていた場合でも、2020 QG は地表には到達しない可能性が大きい。

その代わり、そのような小惑星は大気中で爆発し、鮮やかな火球を作り出し、数十キロトンのTNT爆薬と同等の衝撃波を発生させただろう。これは、1945年にアメリカが日本に投下した原爆とほぼ同じ威力だ。しかし、爆発は地表から5キロメートルほど上空で起こっただろうから、地上の人々には交通量の多い街の騒音よりも大きな音は聞こえなかっただろう。

これはそのような小惑星の発見を不安にするものではないが、一方で大きな問題を引き起こすのに巨大な宇宙の岩は必要ない。

幅20メートルの小惑星が地球の大気圏で燃え尽きる様子をシミュレーションしたもの。

幅20メートルの小惑星が地球の大気圏で燃え尽きる様子をシミュレーションしたもの。

Darrel Robertson/NASA Ames

たとえば、2013年2月、ロシアのチェリャビンスク上空に突然やってきて爆発した約20メートルの小惑星があった。その岩石は巨大な火球になり、500キロトンのTNTに相当する衝撃波を放った。広島型原爆の30倍に相当するエネルギーだ。約20キロメートル上空で発生したこの爆発により、爆風が発生し、ロシアの6つの都市の窓が粉々になり、約1500人が負傷した

また、2019年7月には、「2019 OK」と呼ばれる130メートルの小惑星が、地球と月の間の5分の1以下の距離である、上空7万2400キロメートルを通過した。ある科学者がワシントン・ポスト紙に語ったところによると、この小惑星は「どこからともなく」現れたとのことだ。

万が一、都市に直撃した場合、これらの小惑星は数万人の命を奪う可能性がある

NASAは2005年以来、アメリカ議会の要求によって、危険な宇宙の岩石を積極的に探している。しかし、NASAが義務付けられているのは、直径140メートルよりも大きな「シティキラー」の90%を検出することだ。

2019年5月にNASAは、推定で2万5000個ある「シティキラー」のうち、半分以下しか見つかっていないと発表した。それはチェリャビンスクや2019 OKのような小さな岩はカウントしていない。

さらに、太陽の方向から来る物体(2020 QGなど)は、基本的に見つけることができない。

「小惑星は、光学望遠鏡でしか検出できないので、夜空でしか探索できず、太陽の方向から入ってくる小惑星を検出する方法はほとんどない」とチョダスは言う。

「基本的には、それらが地球の近くを通過するときに発見し、何年後、何十年後を予測をして、それらが我々に影響を与える可能性があるかどうかを調べるという考え方だ」

NASAは、小惑星探査プログラムにおけるこうした懸念に対処する計画を持っている。NASAは、太陽の方向から来る小惑星や彗星を検出できる宇宙望遠鏡の開発を始めている。NASAは2020年予算で「地球近傍天体探査ミッション(Near-Earth Object Surveillance Mission)と呼ばれるこの望遠鏡に約3600万ドル(約38億円)を割り当てている。この先の予算確保がうまく行けば、早ければ2025年にも運用を開始できる可能性がある。

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